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現役の行政書士が、父親を亡くして知ったこと

認知症になった方の銀行預金は 解約できる? できない?

 

 

 

■ 認知症になった方の銀行預金は 解約できる? できない?

 

 

あるテレビ番組では、

こんな質問でコーナーがはじまりました。

 

クイズ:

認知症になった方の銀行預金口座を解約できますか?

 

(次の選択肢から選んでください。)

1 家族ならできる

2 委任状があればできる

3 その他

 

 

たしかこんなふうな設問だったと思いますが、

あなたはどう思いますか?

 

 

街頭インタビューの映像も紹介されていて、

1の「家族ならいいんじゃないの」という方もいれば、

2の「委任状があればできますよね」という方もありましたね・・・。

 

 

私などは少々ひねくれていますので、

「銀行によって対応が違うから一概にいえないよね」

などと思ったのですが、

実際のところはどうなのでしょう?

 

 

■成年後見人がいれば解約できる?

 

 

ようするに番組の趣旨は、

成年後見制度の紹介と、

そのデメリットをとりあげていたのです。

 

 

簡単なクイズから入るのは、

自然と興味がわいていいやりかたですね。

 

 

ちなみに

テレビでは「認知症」だけにしぼって紹介されましたが、

おそらく便宜的に(視聴者にわかりやすくするために)そうしたのでしょう。

 

 

成年後見制度そのものは、

認知症や知的障がいなども含めて

判断能力の不十分な方の財産や権利を守るための制度、

つまり本人を「保護」するための制度です。

 

 

 

家庭裁判所が選任した人が成年後見人となり、

本人の判断能力を補うための様々なサポートをします。

 

 

ちなみに一律に「後見」となるのではなくて、

本人の判断能力の度合いによっては、

後見

補佐

補助

という段階があります。

 

 

「補助」は判断能力が十分でない方が対象、

「補佐」は判断能力が著しく不十分な方が対象、

「後見」は判断能力がない状態の人が対象です。

 

 

 

■ご家族などが、成年後見を開始しようと思ったら?

 

 

 

ご家族などがご両親などを看ていて、

「成年後見をつけなくては!」

と思ったとしたら、簡単にできるのでしょうか?

 

 

申請ができるのは、

本人、配偶者と、4親等内の親族等です。

(市区町村長、検察官なども申請可能です。)

 

 

だから

娘や息子が親について申し立てることも

できますね。

 

 

 

「4親等内の親族」というのは

実はかなり幅広い範囲です。

 

 

 

いとこも、甥や姪も、さらにその子供も、

おじおばのみならず大おじ、大おばさんまでも含むので、

もはや知っている存命の親族(親戚ではありません)は

たいてい含まれてしまうでしょう。

 

 

(逆に、こんなに広くていいのでしょうか)

 親族であれば申請できる可能性を

広く与える趣旨だと思います。

 

 

手続きの流れとしては、

まず家庭裁判所に本人と成年後見人候補者の双方の戸籍、

住民票、診断書等の必要書類を添えて、申し立てをします。

 

 

家庭裁判所は候補者を裁判所に呼ぶなどして調査をし、

必要に応じて本人の判断能力の鑑定(費用がかかる場合あり)を経て、

後見開始の審判、後見人の選任を行います。

 

 

ようするに最終的には家庭裁判所が決めるわけですね。

 

 

その後は法務局へ行って、成年後見登記というものを行います。

登記ですからつまり、公式記録にするわけです。

 

 

 

■後見人になれるのは誰?

 

 

欠格事由こそありますが、

ほとんどの方が候補者にはなれます。

 

 

ただし、

後見人になるのはこの人というのが最初から決まっているわけではなく、

申立の際に候補者をたてて家庭裁判所の判断を待ちます。

 

 

つまり家庭裁判所の結論次第ともいえるわけで、実際は親族か、

あるいは弁護士などの法律家や福祉の専門家などが選ばれて後見人になります。

 

(平成24年の裁判所の資料では全体の48.5%が親族から後見人、補佐人、補助人が選任されています。)

 

 

 

親族のなかから候補者をたてて申し立てたとしても、

面談などを通して判断され、

総合的な理由から弁護士や司法書士の方に後見人が決まる、

ということもありえます。

 

 

■後見人をつけたことによる不満・トラブル 

 

 

ちなみにテレビでは、

認知症の父親に後見人がついたが、

ほとんど会ったこともない弁護士が後見人になり、

その弁護士が信頼できなくて困っている、

といった事例が紹介されていました。

 

 

父親(被後見人)の支出を厳密に管理されてしまうため、

従来なら当然父親が支出していたものにお金がつかえなくなったということでした。

 

 

マスコミのバイアスには気をつけたいところながら、

たしかによく知らない成年後見人がついた場合に、

不満に感じられる方はいるでしょうね。

 

 

(ただ、公平のためにつけくわえると、

必ずしも後見人のこの判断「だけ」をみて、

ひどいとか、ずさんだとはいいきれないのです。

そもそも成年後見は本人の財産を保護する制度設計だからです。)

 

 

 

■成年後見人はそもそも何をする人なの?

 

 

 

実際にどのような支援をするのかは、

補助、補佐、後見という区分によっても異なりますが、

成年後見人は本人のかわりに財産管理や身上監護を行うことができます。

 

 

 

身上監護とは少し抽象的な概念ですが、

いってみれば本人を尊重したうえでの心配りであり、

たとえば施設への入所や入院手続き、その契約等を含めた、

本人がより快適に暮らせるような取り計らいです。

 

 

財産管理は文字通り、金銭などの管理です。

ようするにお財布を握られるイメージです。

(あくまでも本人のために。)

 

 

よって権限は、銀行とのやりとりや不動産の管理や処分、

税金や保険料等の支払はもちろんのこと、

遺産相続の協議にまで及びます。

 

 

逆に、法定後見人でもできないこととしては、

婚姻などの身分行為があります。

これは本来本人だけが決めるべきことだからです。

 

 

また、

治療方針を決めたりする医学的な決定も

できないこととされています。

 

 

(たとえばいざ「手術への同意」となると

理論上はできないわけですね。)

 

 

 

■後見人をたてれば解決する?

 

 

ここで最初の疑問(銀行口座の解約)にもどれば、

通常銀行の口座解約は本人でなければできないので、

原則的な対応としては家族であっても解約はできないことになります。

 

 

 

委任状があったとしても、

判断のできない方は委任という判断もできないはずなので、

委任状持参による解約も理論的には難しいでしょう。

 

 

よって銀行側から、後見人をたてるように言われることもあるようです。

 

 

 

ただたしかに、

後見人によれば預金口座の解約だって可能となるのですが、

個人的な考えをいえば

預金口座の解約のために後見人をたてようという発想には、

強い疑問がのこります。

 

 

成年後見制度の趣旨は、

家族が預金口座の解約を意図した時に便利にすることではなく、

あくまでも判断能力の不十分なかたを保護することにあるからです。

 

 

 

本来入念な準備と心構えの必要な成年後見制度が、

こうした一種の手続き対応みたいにとらえられてしまうと、

後見制度を十分に理解しないままに利用してしまう人が増えてしまわないでしょうか。

 

 

もっと契約と意思表示との基本的なしくみへの理解を高め、

必要な時に必要な制度を主体的に選択できるようにならなければ、

ますます期待のすれ違いやトラブルが増える気がします。